七秒と七百年
宇宙の果ては、静かだった。
2241年7月14日、午後11時37分。太陽系外縁部の深宇宙観測ステーション「ヘリオス」で、言語学者のアリス・ノダは27枚目の解析レポートを閉じた。コーヒーは冷えていた。窓の外には、光年をまたぐ暗闇が広がっていた。赴任から3年が過ぎた。地球にいる娘はもう16歳になっている。
「アリス、異常信号を検出しました」
AIのCASS(コンパニオン・アシスタント・ソフトウェア・システム)の声は、いつも穏やかだった。だが今夜は、その声の底に何かが滲んでいた。まるでCASSもどう処理すれば良いか分からず、ただ報告するしかない——そんな戸惑いが。
「発信源は?」
「2.3光年先。方向はプロキシマ・ケンタウリ付近の小惑星帯です」
アリスは立ち上がった。受信した信号をスクリーンで確認する。規則的なパルス。フィボナッチ数列に似た構造。素数の羅列。人工的な——いや、知性的な痕跡が確かにそこにあった。ファーストコンタクト・プロトコル。アリスはその言葉を頭の中で反芻した。赴任時に分厚いマニュアルを読んだ記憶がある。
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