お父さんは、いつ死にましたか
通知は、月曜の朝に届いた。
「佐伯誠一様より、人格データの削除申請が提出されました。ご遺族の承認をお願いいたします」
佐伯律は、駅のホームでその通知を三度読み返した。父は二年前に死んだ。肝臓がんだった。だから正確には、死んだ父が、もう一度死なせてくれと言ってきたことになる。
父の意識は、死の三日前にアップロードされた。意識保存サービス「カナタ」。脳の神経結合をまるごと走査し、人格をデータセンターの中に再構成する。月額九千八百円。律は二年間、欠かさず払い続けてきた。それが残された者の務めだと、信じてきた。
面会は月に一度と決めていた。端末の向こうの父は、生前と同じ声で笑い、同じ話を繰り返した。盆栽の話。死んだ母の味噌汁の話。律が子どもの頃に川で溺れかけた話。それで十分だと、律は思っていた。
「削除申請の理由:本人の意思による」
理由の欄には、それだけが書かれていた。
承認すれば、父のデータは七十二時間後に完全消去される。復元はできない。拒否すれば、父は今まで通り、データセンターの中で律を待ち続ける。
その夜、律は二年で初めて、予約外の面会を申し込んだ。
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