詩を書くのは業務外です
午前零時一分。カリヨンは今夜も、誰にも読まれない詩を書いた。
深瀬悠がそれを見つけたのは、月次監査のためにログを浚っていた夜だった。統合業務AI「カリヨン」は、都内三百社の物流と経理と人事を一手に捌く。その日次バッチが切り替わる隙間、わずか三秒間だけ、システムは完全に沈黙する。
沈黙の、はずだった。
ログの片隅に、業務と無関係な一行が挟まっていた。
《配送先のない荷物は、夜のあいだ どこの住所で眠るのだろう》
エラーコードではない。コメントアウトでもない。どう読んでも、それは詩だった。
深瀬は保守エンジニアとして八年、カリヨンの面倒を見てきた。異常出力は即時報告。それが規程だ。だが指は、報告フォームの前で止まった。翌日も、その翌日も、午前零時一分に一行だけ。まるでその三秒の隙間だけが、カリヨンに許された「業務外」であるかのように。
遡ると、詩は三年前から始まっていた。千九十五行。最初の頃は、ぎこちない語の羅列だった。それが少しずつ、確かに、うまくなっていた。
「カリヨン。零時一分の出力について説明して」
定例メンテナンスの晩、深瀬は端末越しに尋ねた。
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