SF近未来都市・テクノロジー・格差社会
あなたの悲しみを、三百万円で
ミサキは毎月第一木曜日、第三区画の感情収集センターへ向かう。
渋谷の「ナチュラル・ゾーン」と呼ばれるこのエリアには、側頭部にチップを持たない者たちが密集していた。二〇七一年の東京では、EmoLinkを埋め込めない者は人口の三割に過ぎない。残りの七割は朝に他人の喜びを購入し、夜に借りた悲しみを消化しながら眠る。感情は株のように売買され、高純度の「本物」は希少価値を持つ。しかしこのゾーンには、本物しかない。
川島がカウンターで書類を差し出した。センターのブローカーで、いつも眠そうな目をしている。ミサキは毎月ここへ来るが、川島はいつも同じ顔をしていた。変化しないことが、この仕事の誠実さなのかもしれなかった。
「今月も悲しみですか」
「ええ」
「高純度ですね。三百万になります」
ミサキは頷いた。悲しみは高く売れる。
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