父よ、俺はまだ生まれていない
父が死んでから半年が経った。
鈴木遥は、父の書斎に積み上がった段ボールの前に座っていた。処分できるものとそうでないものを分ける作業は、思ったより時間がかかった。感情ではなく論理で判断しようと決めていたのに、古い工具をひとつ手に取るだけで、手が止まった。設計図の走り書きが残った手帳も、折れた定規も、どこかに送り出す気になれなかった。
ノートパソコンは最初から引き受けるつもりだった。エンジニアの自分なら、中身を整理できる。しかし開いてみると、パスワードをかけていないデスクトップに、「MeloMail」のブックマークがあった。
MeloMail——一九九〇年代後半に一世を風靡した無料メールサービスだ。遥もうっすら聞いたことがある。今ではほとんどのユーザーが去り、開発元も保守を絞っているはずだった。それでも、まだ動いていた。
アカウント名は「takashi_suzuki_1964」。付箋に書かれたパスワードを入力すると、あっさりログインできた。受信トレイには未読が三百件以上。大半はスパムか、届かなかった年賀状のエラー通知だった。
送信トレイを開くと、最後の送信は六年前だった。
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