地上は死んでいない
空を見たことがない。
十七年間、カイはその事実を当たり前として生きてきた。生まれ落ちた場所がネビュラ-7——旧東京防衛シェルター第七区画を再編した地下都市——である以上、それは仕方のないことだった。
地下五百メートルの天井には蛍光板が張り巡らされ、朝は黄白色、昼は白、夜は深い青に切り替わる。長老たちはそれを「人工の空」と呼ぶが、カイにはどうしても空とは思えなかった。光はあるが、風がない。においがない。果てがない。
「空は遠くまで続くんだぞ」
父は死ぬ前に、一度だけそう言った。カイが十二歳のとき。高熱で床に伏した父は、末期になって奇妙に饒舌になり、地上の話をたびたびした。「鳥が鳴く声を聞いたことがあるか」「雨の匂いを知っているか」——カイには何一つわからなかった。
父の死から五年が過ぎ、遺品の整理をしていたカイは、倉庫の奥でそれを見つけた。
ORION端末。
防衛省の刻印が入った旧世代のデータストレージ。埃をかぶり、充電切れで沈黙していたそれを、カイはネビュラ-7の電力ケーブルで蘇らせた。
起動音が鳴り、画面に映像が流れた。
青かった。
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