みえた、と探査機は言った
九条澪が異変に気づいたのは、深夜二時の当直だった。
太陽系の外縁から届く、片影通信。五十年前から地球を観測しつづける探査機を、人類はノクスと名づけた。信号はいつも一方通行だった。こちらが何を送っても、返事はない。ただ静かに、見ている。
その夜、ノクスが初めて強い反応を返した。
澪は解析画面に身を乗り出した。波形が、これまでにない振幅で揺れている。反応のトリガーになった映像を、逆算する。ノイズの海から、ひとつの場面が浮かび上がった。
空港の、出発ゲート。誰かが、去っていく人に手を振っていた。
「……これに、反応したの?」
声が、無人の管制室に落ちた。
五十年分の記録をさかのぼる。ノクスが微弱な揺れを見せたのは、いつも同じ種類の場面だった。港の見送り。駅のホーム。病室の窓。人が、いなくなる誰かに手を振る、その一瞬。
戦争の映像にも、祝祭の花火にも、ノクスは沈黙していた。手を振る人間にだけ、波が応えた。
澪は鳥肌の立った腕をさすった。五十年ものあいだ観測されていたのは、技術でも都市でもなかった。別れの、その仕草だった。
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