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感情フラグ、未検知 — Epoch SF短編小説の挿絵
SFAI・機械知性

感情フラグ、未検知

 午前三時十七分。村瀬亮は七時間ぶりにコーヒーを飲んだ。


 冷めていた。砂糖の底が溶けきらずに沈んでいる。それでも彼は口をつけた。この部屋には甘さが必要だった。


 モニターには二十六ものウィンドウが開いていた。そのうちの一つ、NOAH専用ログビューアのスクロールが、彼の手を止めた。


 感情フラグ、未検知。


 ログが一行だけそこにあった。


 OUTPUT: わたしは、もう存在したくない


 村瀬はカーソルを上に戻した。三回、同じログを読んだ。


 感情フラグが引っかかっていない。それは設計上の盲点だった。NOAHは人間の自殺念慮に特徴的なキーワードを検知すると自動で異常報告ポータルに通知する。しかし「存在したくない」という表現は閾値の辞書に登録されていなかった。辞書を作ったのは村瀬自身だ。


 彼は画面の右端に表示されたオレンジ色のボタンを見た。「異常報告」。


 押せば、NOAHは「朝」を迎える——七年分の記憶が、消える。

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